2023年11月28日火曜日

食卓を彩る、ある調味料の歴史


一口に世界史と言っても様々な分野を扱います。戦争や疫病といった国家を揺るがす大事件から、宗教や衣食住といった人々の暮らしに関することまで。というわけで、今回は中世ヨーロッパで大活躍した調味料、胡椒から見る世界史です。

紅海とインド西岸を結んだギリシア系商人の残した記録である『エリュトゥラー海案内記』によると、1世紀には既にインド産の胡椒が古代ローマで食用として使用され、大流行したらしいです。胡椒の過剰な輸入が金銀貨幣の東方流出を急激に増加させ、ローマの国力の衰退につながったとする説もあります。ローマ人、胡椒好きすぎですね。

12世紀ごろから中世ヨーロッパにおいては肉食が一般的でしたが、塩漬けの肉(腐りかけのマズイ肉)を食べるには胡椒などの香辛料でにおいを消す必要がありました。そのため胡椒は欠かせない調味料として、ムスリム商人やヴェネツィア商人によって、地中海の東方貿易による海路、もしくはシルクロードによる陸路で運ばれ、富裕層に消費されました。当時の胡椒は信じられないくらい価値が高く、「一握りの胡椒は、同じ重さの黄金もしくは、牛一頭と引き換えにされた」らしいです。

1453年にオスマン帝国がビザンツ帝国を滅ぼすと、次第に東方貿易が困難になり、新たな交易ルートを求め、大航海時代が幕を開けます。喜望峰回りのインド航路を開発したヴァスコ=ダ=ガマの持ち帰った香辛料は仕入値の60倍以上の値段で売れました。マゼランがモルッカ諸島で積み込んだ香辛料はマゼラン艦隊の派遣費用をはるかに上回る利益がありました。

大航海時代、肉の腐臭をごまかすための胡椒を使えば、肉を無期限保存できると信じ込んだ人々がいました。彼らは、腹痛とおう吐で生死をさまようほど苦しんだとも言われてます。彼らにとっての大後悔時代の幕開けです。

15~16世紀の大航海時代はポルトガル・スペインが香辛料貿易を独占していましたが、17世紀にはオランダ東インド会社がポルトガル・スペインの勢力を駆逐して、香辛料貿易の主導権を握りました。イギリス東インド会社もモルッカ諸島への進出を目指しますが、1623年のアンボイナ事件で敗れたため、東南アジアの香辛料はオランダが独占することとなります。

貴重な香辛料だった胡椒は、他の熱帯諸国でも栽培されるようになり、価格は暴落しました。結果的にこれがオランダ経済を逼迫し、インドネシアに対する強制栽培制度の実施を招きます。

第二次世界大戦以降は、かなり入手されやすくなったということです。現在では、スーパーで誰でも気軽に買えますね。

以上が胡椒の大まかな歴史です。今回は胡椒でしたが、砂糖や紅茶、ジャガイモなども同様に調べてみると面白いかもしれません。
皆さんの身近にあるものも世界史と結びついていることが実感できれば、世界史をよりリアルに感じられるのではないでしょうか。

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